絵本作家風木一人の日記

絵本作家風木一人の日記です。

小説はなぜ小説なのか

手当たりしだい読んでいたのは十代までで、二十代以降はほとんど少数の気に入った作家だけを読んできた。少しは幅を広げようかと知らない作家に当たり始めたがどうも手応えに乏しい。やはり優れた作家はそんなにごろごろ転がっているものではないらしい。

ところで小説はなぜ小説なのか。小説と呼ばれるのか。「小説」といって我々が思い浮かべるイメージはこの漢字2文字とはずいぶん違わないか。
「小」はおそらく謙称か蔑称であろう。事実の記述に比して作り話を低く見た表現と思われる。
「説」は? 「説明」や「解説」は「小説」からは遥かに遠い。「説話」や「伝説」ならいくらか近いか。
中国に昔からあった(現代日本で小説と呼ばれるものとは違うものを指す)言葉を、明治の人が ROMAN や NOVEL の訳語として採用したのだろうが、ぼくに言わせればあまり適切な選択ではなかった。
とはいえ100年以上使われていると名称と実質はイメージの中で分かちがたく結びついてくるもので、今では疑問を持つ人もろくにいない。言葉というのはそういうものだ。使われ方によって意味が決定する。