絵本作家風木一人の日記

絵本作家風木一人の日記です。

最後は精神力か……

信じられないものを見た。名人戦第六局。検討しているプロ棋士たちがさじを投げ、素人目にも勝負ありとしか思えなかった局面から、郷田九段は実に40手以上も指し続けた。勝算がほとんどないことを知りながら戦い続けるのは辛いことである。敵と同時に自らの内の絶望とも戦わなければいけないからだ。角番に追い込まれ、敗れれば名人奪取の悲願が潰える大一番で、郷田九段はそれをやった。
郷田九段が奇跡のような妙手を放ったわけではない。森内名人がトッププロにはありえないようなミスを犯した。なぜだろう? プレッシャーがかかる要因はいくつもあった。すでに3勝を上げた森内名人はここで勝てば防衛決定、それは同時に永世名人称号の獲得でもあった。勝勢を自覚したとき全くの平常心で居られたとは思えない。そこに郷田九段の壮絶な粘り。森内名人には敗勢明らかなのに指し続ける郷田九段が理解できなかったのではないか。有効打を打ち込んでも打ち込んでも倒れず向かってくる理解できない相手に、次第に精神のスタミナを奪われ、最後の最後で間違えてしまったのではないか。
将棋界の頂点、名人戦七番勝負でこんな大逆転は見たことがない。興奮でちょっと眠れそうにない。
3勝3敗で決着は月末の最終局へ持ち越された。
悲願の名人位まであと1勝。
とはいいながら、ここまで来たら結果はもうどちらでもいいような気もしてきた……